インピンジメント症候群
インピンジメントしょうこうぐん
インピンジメント症候群とは、腕を挙げた際に肩と腕が衝突して痛みが出る疾患です。
発症すると治りは悪く長期間に渡り肩の痛み、違和感が続くケースが多いです。
肩の中の仕組み
肩には筋肉同士の摩擦を減らしたり、腕の骨が肩の骨と衝突する時のクッションの役割がある肩峰下滑液包 (けんぽうかかつえきほう) と呼ばれる水が入った袋があります。
肩のインナーマッスル (深層筋) は腕の付け根を安定支持する重要な役割があります。
その他、肩に関して最も重要なものに腕の捻りや挙上を行う腱板 (けんばん / ローテーターカフ) というものがあります。
出典 : 日本整形外科学会 「整形外科シリーズ 16」
これら肩峰下滑液包、腱板などに炎症や骨棘 (こつきょく / 骨のトゲ) 、亀裂などがある場合、腕を挙上すると腕の骨と肩峰下滑液包や腱板が挟まれたり衝突して肩に鋭い痛みが出ます。
インピンジメント症候群は動きの大きな股関節でも起こります。
股関節インピンジメントはこちら ⬇︎
インピンジメント症候群の症状
インピンジメント症候群の症状は、腕を上まで挙げると肩の関節にツンとした痛みが出ます。
特に手の甲を上にして肘を伸ばし、腕を横から持ち上げると痛みが出やすく (内旋外転の動き) 、手のひらを上に向けて腕を上げると痛みは出ない事が多いです (外旋外転の動き) 。
この理由として、腕の骨の付け根にある上腕骨の大結節 (だいけっせつ) という突起の位置が、腕を内側に捻った状態では上方に来てしまいます。
そのため、腕を上まで挙げるとその突起部分である大結節と、肩の肩峰下滑液包や腱板が衝突 (インピンジメント) するために痛みが出ます。
最近、インピンジメント症候群の説明に肩を上げる途中で痛みが出る「有痛弧(ゆうつうこ)」があると説明するサイトを多く見かけますが、それは棘上筋損傷の兆候でありインピンジメント症候群はあくまで「衝突」して痛みが出ます。
さらに、腕を上げると痛いのではなく腕を内側に捻ってから上げると痛みが出るので注意してください。
痛みが出る原因は?
インピンジメント症候群の原因
インピンジメント症候群の原因として考えられるものは以下のようになります。
- スポーツ
- 加齢
- ケガ
- その他の疾患
スポーツ
野球、バレーボール、水泳、バスケットボール、テニスなど腕を上げる動作が多いスポーツでは肩の腱板が傷ついたり、肥厚するなどして痛みを残す事があります。
このため腕を上げる際、インピンジメント症候群の痛みが出やすくなります。
加齢
肩周囲の関節が加齢により骨棘 (こつきょく / 骨のトゲ) が形成される事があります。
骨棘は長年、その場所に刺激を受け続ける事で作られる事が多く、ただでさえ狭い構造である肩の関節をより狭くしてしまいます。
骨棘によるインピンジメント症候群は
保存療法的
に治すことは困難なものが多いです。
ケガ
肩周囲の骨折や脱臼、捻挫などで痛めた組織は治ったように見えても変形や傷を残す事が多く、インピンジメント症候群の原因となる事があります。
肩のケガの後遺症として残りやすい損傷箇所は関節唇 (かんせつしん) 、腱板、上腕二頭筋長頭腱、肩鎖関節脱臼などがあります。
関節唇 (かんせつしん) とは、肩関節や股関節など動きの大きな関節を安定させ、衝撃からのクッションにもなる線維性の軟骨です。
脱臼や投球などで関節唇が剥がれてしまう事があります。
その他の疾患
肩の疾患である石灰沈着性腱板炎、腱板損傷、肩峰下滑液包炎などの疾患でもインピンジメントによる痛みを残す事があります。
石灰沈着性腱板炎 / 肩の痛み 腱板損傷 / 肩の痛み・ 腕が上がらない 肩峰下滑液包炎 / 肩の痛み
どんな検査法があるのか?
インピンジメント症候群の検査では主に2種類の徒手検査 (としゅけんさ / 機械を使わずに行う検査) が行われます。
Hawkins’s (ホーキンス) テスト
痛みのある側の腕を前に水平まで真っ直ぐに上げて、その状態から肘を直角に曲げます。
その手を内側に捻るように倒して肩に痛みが出ればインピンジメント症候群の可能性があります。
Neer’s (ニアー) テスト
痛みがある側の肩が動かないように上から抑えてもらい、肘を真っ直ぐにして腕を前に伸ばします。
肘を伸ばしたまま小指が上になるように内側に捻りながら上に挙げた際、腕の付け根に痛みが出ればインピンジメント症候群の可能性があります。
インピンジメント症候群の治療法
保存療法
主にステロイドやヒアルロン注射を行います。その他、運動療法、物理療法を行いますがインピンジメント症候群の痛みは原因により保存療法では取り除く事が困難なものが多いです。
特に難治なものは次のような場合です。
- 骨棘があるもの
- 腱板損傷があるもの
- 石灰が長期間存在するもの
- 加齢により肩峰下腔が狭くなったもの
- 骨折、脱臼後の変形治癒
これらは原因から取り除く事が困難なためインピンジメントによる痛みが出る事は避けられず、腕を上げる角度によりどうしても痛みを感じてしまいます。
これらの緩和策として肩甲骨の動きをストレッチなどで良くすると、肩関節を腕だけで動かす場合と違い、衝突や擦れを軽減させ痛みを緩和させる事は可能です。
「石灰沈着性腱板炎」の初期のものでは肩関節を動かす事で石灰が分解吸収されインピンジメント症候群の痛みが消える事もあります。
肩の疾患の多くは初期の段階に安静とする事でインピンジメント症候群となるリスクを減らすことができます。
骨棘や硬化してしまった石灰の沈着、腱板損傷では手術により改善できるものもあります。
手術療法
保存療法で痛みが消えないものは手術が選択される事があります。近年では鏡視下手術が発達し、内視鏡により傷が小さく体への侵襲も少ないため回復が早く予後の状態も期待できます。
手術では骨棘ができたものは取り除き、腱板損傷は修復します。肩峰下腔が狭くなったものは厚くなった滑液包を切除して圧迫を減らします。
まとめ
インピンジメント症候群は一定の動作でのみ痛みが出るため、何となくそのまま過ごしている事が多く、数十年患っている事も少なくありません。
そのため地味ですが非常に厄介な疾患だと言えます。