「股関節 (こかんせつ) 」とは、足の付け根の関節で、骨盤と大腿骨との関節を指します。
足を動かす角度によりこの股関節に「ズキっ」と鋭い痛みが出る事はありませんか?
この痛みをお持ちの方は相当数いると思われますが、股関節が痛いとレントゲンを撮りに行っても「異常ありません」と言われて原因が分からず何年も経過している方を多くみかけます。
この股関節に現れるレントゲンでも分からないしつこい痛みは何なのでしょうか?
実はこの場合、「股関節唇損傷」の可能性が非常に高いです。読み方は「こかんせつしんそんしょう」です。
ここでは股関節唇損傷について詳しく見て行きます。
股関節唇損傷の症状
足の付け根の関節を股関節 (こかんせつ) 」と言いますが、この関節は受け皿側の臼蓋 (きゅうがい) という凹みが浅いため、それを補うために「関節唇 (かんせつしん) 」という軟骨組織が骨頭を包むように支持しています。
関節唇は股関節のように動きが大きな関節にあり、関節を補助的に支える役割があります。
そのため関節唇は股関節以外に、大きく動かす事が可能な「肩関節」にもあります。
この関節唇が様々な原因で損傷してしまうと次のような症状が現れます。
股関節唇損傷の症状
- 股関節を直角以上曲げると足の付け根が痛い。
- 股関節を直角以上に曲げて内側に倒すと足の付け根が痛い。
- 股関節を直角以上に曲げて外側に開くと足の付け根が痛い。
- 立った状態からしゃがむ動作で足の付け根が痛い。
- 仰向けで膝を曲げて股関節をグルグル回すと痛む、又は引っかかり感がある。
- 椅子や便座に座ると股関節が痛い。
- 足を捻ると股関節が痛い。
- 車の乗り降りで足の付け根に痛みが出る。
関節唇を損傷した場合、足の付け根 (鼠径部 / そけいぶ) の特に内側や前面に痛みが出ます。
この痛みは安静時には無く、股関節が動く時に臼蓋と大腿骨の骨頭部が衝突 (股関節インピンジメント) する事で痛みが出ます。
また、股関節を回した際に引っかかり感やクリック音が出る事があります。
そのため、通常歩いている時よりも股関節を曲げた状態で痛みが出ることが多く、しゃがんだり前かがみの姿勢でも股関節が曲がるため、同様に痛みが出ます。
股関節を動かす時に出る関節唇損傷による痛みは、継続的にズキズキするのではなく、鋭く瞬間的なズキっとした痛みを感じます。
症状が悪化したものでは歩行時などでも痛みが継続的に出る事があります。
これとは逆に股関節を曲げる際、膝 (ひざ) を外に向かって曲げると股関節の骨同士が衝突しないため比較的痛みは出にくいです。
股関節唇損傷に関連する疾患
股関節唇損傷に関連する疾患や痛みの位置が似ていて間違えやすい疾患がありますので、それぞれの疾患の特徴を見比べて判断すると分かりやすいと思います。
また、関節唇損傷と合併している事が多い疾患や症状を見てみます。
股関節唇損傷に関連する疾患
- 変形性股関節症
- 特発性大腿骨頭壊死症
- 股関節インピンジメント症候群 (FAI)
- 坐骨神経痛
1. 変形性股関節症
「変形性股関節症 (へんけいせいこかんせつしょう) 」とは、股関節の軟骨が加齢や体重などによりすり減ることで痛みが出る疾患です。
「変形性関節症」では多くの場合、歩き出しなどの「始動痛 (しどうつう) 」が主な痛みですが、関節唇損傷を合併している事が多く、その場合、しゃがむ動作や股関節を曲げて足を内側に倒す動作で鋭い痛みが出ます。
また、臼蓋形成不全により股関節の受け皿が浅い場合や逆に深すぎる場合にも変形性股関節症の原因となります。
2. 特発性大腿骨頭壊死症
「特発性大腿骨頭壊死症 (とくはつせいだいたいこっとうえししょう) 」とは、太ももの骨である大腿骨の骨頭部が血流障害などにより壊死 (えし / 死んでしまうこと) する疾患です。
この疾患は初期症状ではレントゲンで確認しても分からないことが多く、徐々に悪化し、股関節の痛みが強くなっていきます。
ただし、特発性大腿骨頭壊死症の痛みは「股関節唇損傷」と区別しやすいので判別は可能です。
特発性大腿骨頭壊死症について詳しくはこちら ⬇︎
特発性大腿骨頭壊死症 / 股関節の痛み
3. 股関節インピンジメント症候群 (FAI)
インピンジメントとは「衝突」という意味で、股関節を作っている腸骨の臼蓋と大腿骨の骨頭部が衝突して痛みが出ます。
股関節インピンジメント症候群では変形性関節症や関節唇損傷でも陽性となるため、見極めが必要です。
特に股関節唇損傷がある場合、股関節インピンジメントの症状が9割にもみられる事が分かっています。このうち臼蓋形成異常での股関節インピンジメントはわずか4%です。
この股関節インピンジメントは2種類に分ける事ができます。1つ目は「大腿骨骨頭側」の問題、もう一つは「臼蓋側」の問題です。
骨頭側の問題を「カム型」、臼蓋側の問題を「ピンサー型」といい、骨頭側と臼蓋側の両方が原因となるものを「混合型」と呼びます。
カム型は男性、ピンサー型は女性に好発し、どちらも骨同士が衝突することにより痛みが出ます。
インピンジメント症候群は動きの大きな肩関節にも起こる事があります。
肩関節インピンジメント症候群はこちら ⬇︎
インピンジメント症候群 / 肩の痛み
4. 坐骨神経痛
「腰椎椎間板ヘルニア」や「腰部脊柱管狭窄症」などで下肢 (足) に痛みやしびれが現れる「坐骨神経痛 (ざこつしんけいつう) 」という症状があります。
この坐骨神経痛の症状でも股関節周りに強い痛みが出ることがあります。
この場合、腰で神経が圧迫されていて神経過敏状態になっているため、股関節に体重がかかるなど、足を着くと痛い症状や、骨盤の骨などにも痛みを感じる事があります。
この痛みは股関節唇損傷と似ていて、坐骨神経が過敏になるとインピンジメントの症状が出るなど判別が難しい事があります。
股関節唇損傷の原因
原因 1 : 寛骨臼形成不全
股関節唇損傷の原因は様々ですが、多いものに「寛骨臼形成不全 (かんこつきゅうけいせいふぜん) 」又は「臼蓋形成不全 (きゅうがいけいせいふぜん) 」があります。
寛骨臼 (臼蓋) 形成不全とは、女性に多く見られ、骨盤側の足の付け根がハマる凹み部分の受け皿が生まれつき浅い状態です。
足の骨の先端 (大腿骨の骨頭部分) の受け皿である骨盤の凹みが浅いと、関節の噛み合わせが緩く動揺してしまいます。
そのため、関節軟骨の消耗や大腿骨頭を支持している「関節唇」を痛めてしまいます。
一度痛んだ関節唇は再生する事はなく、自然に元に戻る事はありません。
原因 2 : 無理な動かし方
治そうとして、または運動として股関節を動かし過ぎると悪化する事があります。
例えば痛みを消そうとして、痛い方向にストレッチをしても関節唇が損傷している状態ではいつまでも痛みは消えません。
むしろ繰り返しの股関節インピンジメント (衝突) は、痛みがより過敏になり症状を悪化させてしまいます。
筋力トレーニングは関節唇損傷に対して効果的ですが、こちらも股関節の痛みを確認しながら行わないと逆効果です。
ランニングなどは刺激が強いため可能であれば避け、ウォーキングなどに切り替えたトレーニングを行う必要があります。
原因 3 : 反り腰
股関節唇を痛める原因として多いものに反り腰があります。反り腰とは骨盤が前傾した状態で、いわゆる「出っ尻」の姿勢です。
このような腰の場合、股関節が通常よりも後方に突き上げる形となり、関節や関節唇に強い負荷がかかります。
股関節唇損傷の検査法
股関節唇損傷は軟骨組織のためレントゲンで確認する事が出来ません。
そのため、通常は上記のような関節唇損傷の症状が見られる場合、確定診断にMRIが使われます。
MRIでは軟骨の状態も確認できるので、関節唇の損傷程度に加え、股関節の関節軟骨の損傷程度も見る事ができます。
股関節唇損傷の治療法
関節唇を損傷した場合、まずは手術をしない保存療法を行います。
関節唇損傷の比較的軽度なものは保存的に治療することで痛みを改善させることが可能です。
ただし軽度の場合を除き、一度傷がついたり剥がれたりした関節唇は自然治癒することは難しく、将来的には痛みが再発することもあるため、姿勢などはっきりした原因があればそれらを根本的に改善させる必要があります。
保存療法では電療や温熱などの物理療法に加え、筋力トレーニングなどの運動療法を行います。
この保存療法で痛みが消え改善するものもありますが、痛みが消えないものや変形性股関節症を併発している重度のものには手術が行われます。
保存療法 (手術以外)
姿勢の改善
股関節唇を損傷する大きな原因として腰が反っている状態 (骨盤前傾) が多く見られます。
この反りを治すために仰向けで膝を抱えるストレッチや、つま先重心で前かがみの姿勢になっている状態をかかと重心に変えて傾いた骨盤を戻す事が必要です。
反り腰を戻すストレッチでは股関節を真っ直ぐに曲げると股関節インピンジメントの痛みが出やすいので、ひざを少し外向きに曲げると比較的安全です。
その他、両ひざを抱えるようなストレッチを1日数回行います。
筋力トレーニング
股関節周りの筋力アップにより関節にかかる負担を減らす方法です。
筋力トレーニングは負荷をかけ過ぎると逆効果となりますので、慣れるまでは足の自重だけで充分です。
- 腸腰筋 (ちょうようきん)
- 小・中臀筋
- 内転筋・薄筋
- ハムストリングス (大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋)
観血療法 (手術療法)
保存療法で改善が見られない場合、手術が選択されます。
股関節唇損傷では関節唇を損傷した原因により治療が異なります。
関節唇の損傷のみの場合、関節鏡での手術により関節唇の修復や切除を行います。
股関節の受け皿 (臼蓋) が浅い場合や逆に深い場合、軽度のものには臼蓋を形成する手術を行います (回転骨切り術) 。
ただし、回転骨切り術の場合、リハビリ期間が長期に及びます。
変形性関節症を合併しているものや臼蓋形成が困難な場合は「人工関節置換術」が選択されることもあります。
まとめ
この「股関節唇損傷」はレントゲンに写らないため、非常に見逃されやすい疾患の一つです。
その多くは「関節炎」や「変形性関節症」、「筋肉痛」や「異常なし」のような診断を受けることがあります。
軽度な関節唇損傷の場合では自然治癒する事もありますが、病院へ行かれるような方は何年も痛みが続いているようなケースが多いと思います。
もしここにあるような症状があり、長期間に渡って痛みが続いているようであれば、股関節の症状に詳しい病院へ相談してみると安心かと思います。
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