肩を回すと音が鳴る原因と治療法
肩関節、主に腕をグルグル回すと肩の部分から音が鳴る事があります。
一時的な事もありますが、大半の人は原因も分からず何年もそのまま鳴っているかと思います。
はたしてこの音の原因は何なのでしょうか?
今回は肩の音鳴りのメカニズムや治し方を見て行きます。
音の正体
腕を回したりある角度へ動かした際に音が鳴る場合、考えられる原因は大きく次の6つです。
- 肩関節に石灰が溜まっている
- 肩関節周囲の腱が引っかかっている
- 腱板が痛んでいる
- 肩甲骨が肋骨に引っかかる
- 肩甲骨の内側に腫瘍がある
- 肩鎖関節の靭帯が損傷している
それでは一つずつ確認していきます。
1. 腱関節に石灰が溜まっている
肩関節の中に傷が付いたり炎症が起こると組織の一部などが石灰化する事があります。石灰沈着性腱板炎 (せっかいちんちゃくせいけんばんえん) などは非常に多い疾患です。
この石灰は初期では白くドロドロしているため注射器で抜くことも可能ですが、時間の経過したものは硬くなり複数になる場合もあります。
この肩関節にできた石灰が腕を動かす時に腱や狭い肋鎖間隙 (ろくさかんげき / 肋骨と鎖骨、上腕骨からなる狭い隙間の部分) の中で引っかかる事で音が鳴ります。
肩関節に石灰が溜まった場合の音は肩を動かした時に耳から聞こえる音ではなく、肩を回している本人か、腕を持っている施術者にしか聞こえない振動のようなクリック音です。
石灰沈着性腱板炎について詳しくはこちら ⬇︎
2. 肩関節周囲の腱が引っかかっている
肩関節には多くの筋肉が付いていますが、筋肉が骨に付く部分は腱というひも状の組織になります。
この腱が関節を作っている骨の変形や姿勢の悪化などで腕を回すと骨の出っ張りなどに引っかかりやすくなります。
腱から出る音は比較的耳から聞こえる音です。聞こえる音だけではなく、もちろん肩や腕に触れている人も感じ取れます。
3. 腱板 (けんばん) が痛んでいる
肩の筋肉には重要な役割を持つ腱板 (けんばん) と呼ばれる部分があります。
腱板は棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋という筋肉の腱が腕の骨を包むように付いていて、腕を捻ったり持ち上げたりする動作を担います。
その腱板は肩関節の狭い空間にあり外力を受けやすく、さらに腕を動かす時に関節の中で骨に衝突するなど亀裂や断裂、変形しやすい環境にあります。
そのため肩を回した際に腱板のクリック音やギシギシした音を感じ取ることができます。
腱板損傷について詳しくはこちら ⬇︎
4. 肩甲骨が肋骨に引っかかる
肩甲骨が引っかかる事で音が鳴るものは弾発肩甲骨 (だんぱつけんこうこつ) と呼ばれます。
腕を外側へ上げていくと、角度が30°以上からは肩甲骨も一緒に動き出します。
肩甲骨が動き出す角度以上になると音が鳴る場合では、肩甲骨が肋骨または筋肉などに引っかかっているケースがあります。
特にこの場合、姿勢が大きな原因となります。例えば猫背のように背中が丸まってしまうと、肩甲骨は丸まった背中の上を移動することになります。
この状態では肋骨が背中に張り出し、突っ張った筋肉が肩甲骨の滑りを妨げて (引っかかって) しまいます。
検査法としては試しに背中の真ん中で紙を挟むように肩甲骨を寄せて胸を張ってみてください。その状態で肩を回しても音が鳴らなければ本症状です。
5. 肩甲骨の内側に腫瘍がある
その他、音が鳴る原因として肩甲骨の内側に腫瘍 (しゅよう) などの「デキモノ」ができたために起こる場合があります。
腫瘍といってもほとんどが良性腫瘍で、脂肪腫などの本来は存在しても問題のないデキモノが肩甲骨内側や周囲にできてしまうと肩甲骨が引っかかる原因となります。
腫瘍だけでなく肋骨に軟骨や外骨腫などが形成され隆起し、弾発肩甲骨の原因となるものも見受けられます。
6.肩鎖関節の靭帯が損傷している
鎖骨と肩甲骨からなる肩鎖 (けんさ) 関節は複数の靭帯で結合しています。
その靭帯の一部が、転倒などで手や肩を衝いた際に断裂する事があります。部分的に靭帯が断裂すると鎖骨の片端が少し浮いて皮膚が盛り上がって見えます。
完全に靭帯が断裂したものは鎖骨が皮フを突き破りそうなほど浮き上がります。
これは肩鎖関節脱臼と呼ばれます。
肩鎖関節脱臼について詳しくはこちら ⬇︎
部分断裂の肩鎖関節脱臼では肩 (腕) を回すと関節部の靭帯が緩いために、肩甲骨と鎖骨の関節が動いてしまいガリガリやゴリゴリした音が鳴ります。
これらのように肩 (腕) を回すと音が鳴る原因は様々で、それに伴い治し方も異なってきます。
音が鳴る事は悪いのか?
腕などを動かすと肩から音が出る事で体への影響や動かしても大丈夫なのかどうか心配だと思います。
結論から言えば、音が鳴る事自体はそんなに悪い影響はありません。特に動かして音が鳴る際に痛みを伴わないのであればほとんど問題はないでしょう。
ただし、音が鳴る原因によっては既に組織が痛んでいたり、今後頸椎症や腱板断裂などへ進行し悪化してしまう可能性もあるため注意を要します。
肩の音を治す方法
肩の音が鳴る場合、原因により治し方も異なってきます。
前述の原因別に見て行きます。
1. 肩関節に石灰が溜まっている場合
関節の中に石灰が溜まるケースは非常に多く、音が鳴るだけでなく痛みを伴う事がほとんどです。
石灰は2〜3ヶ月で自然に吸収されて消える事が多いですが、一部は硬化し何年も消えず残ってしまうものもあります。
石灰が柔らかい状態では注射器で石灰を引き抜けるため吸い取り、そこにステロイド剤を入れて消失させる方法があります。
ある程度石灰が硬化していて数ヶ月経過してしまっているものは、肩関節をよく動かす事で石灰の吸収を促します。
肩関節を動かす時はブンブン腕を回すと石灰部分が炎症を起こし激痛を引き起こす事があるため、ゆっくりと少しずつ痛みのない範囲を動かします。
肩の関節に石灰があると腕を回す際に引っかかるような音や痛みが出ます。その場合は引っかからない角度で動かすなど無理に痛みに逆らわないようにします。
2. 肩関節周囲の腱が引っかかっている場合
肩関節を作っている鎖骨、肩甲骨、上腕骨の骨は年齢を重ねるごとに少しずつ変形していきます。
その変形した骨の突起部分に腕を回すと筋肉の腱が引っかかり音が鳴るようになります。
骨の変形から起こるこうした音が鳴るものはほとんど痛みを伴わないかわりに音が鳴らないようにする事は困難です。
ただし、姿勢の悪化で骨の突起に腱が引っかかるものは姿勢が改善する事で鳴らなくなります。
3. 腱板が痛んでいる場合
肩から音が鳴る原因として最も良くないのがこの腱板からのものです。
ほとんどが腱板部分に亀裂や部分断裂などがあり、完全に断裂している事もあります。
腱板のこうした損傷は自然治癒は望めず、何年経っても肩が痛い、音が鳴り続けるといった原因となります。
つまり腱板損傷から音が鳴る場合、鳴らなくする事は非常に困難です。
ただし、痛みを伴わないもので音が鳴るだけであればそのままでも大きな問題ありません。
4. 肩甲骨が肋骨に引っかかる場合
こちらも多い症状で、特に猫背のように前かがみの姿勢の方に頻発します。
ねこ背になると肩甲骨 (特に下の尖った下角という部分) が背中をスムーズに滑らず、出っ張った肋骨に引っかかり易くなります。
胸を張って顎を引き音が無くなるようでしたらほとんどがこの症状のため姿勢を正し、ねこ背を治す事で改善します。
5. 肩甲骨の内側に腫瘍がある場合
肩甲骨が良性腫瘍などのデキモノで引っかかる場合はほとんど放置しても問題ありません。
気になる場合、デキモノには消失するものもあるので背中の部分にかかる鞄や寝床などの硬い部分が当たらないようにして刺激を減らします。
痛みが無いため外科的に取り除く事はほとんどありません。
外骨腫など肋骨の一部が隆起しているものは自然治癒する事は困難です。そのため肩甲骨の引っかかりが強い場合や痛みを伴う場合には外科的に取り除く事があります。
6.肩鎖関節の靭帯が損傷している場合
肩鎖 (けんさ) 関節の靭帯が部分的に切れて関節が少し動くことで音が鳴る場合、急性期 (ケガをして数日以内) であれば固定する事で治る可能性があります。
しかし、時間が経ってしまったものは靭帯が緩いまま治癒してしまっているために関節が動く音を治す事は困難です。
まとめ
肩の関節は動きが非常に大きく、肩 (腕) を回すと音が鳴るという方は多いと思います。
これまで多くの症例を見ていて上記のような原因から発症するものがほとんどでした。大半は痛みを伴わないために治療的な事は考えもしない方が多いかと思います。
音が鳴る原因によってはしっかりと治るものもあるので、ご自身の状態と照らし合わせていただけたらと思います。
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