大腿二頭筋腱炎
だいたいにとうきんけんえん
大腿二頭筋腱炎とは太ももの裏の筋肉である大腿二頭筋の腱に微小な傷が付く事で膝の外側に痛みが出る疾患です。
大腿二頭筋腱炎とは?
「大腿二頭筋 (だいたいにとうきん) 」とはどこの筋肉でしょうか?
大腿二頭筋は太もも (大腿部) の裏側の筋肉で膝を曲げる動きと、股関節を反らす動作や外側に捻る動作を行う筋肉です。
太ももの裏側の筋肉には他に半腱様筋 (はんけんようきん) と半膜様筋 (はんまくようきん) があり、この三つの筋肉を合わせて「ハムストリングス」と呼びます。
スポーツや筋トレをしている方は略して「ハム」と言ったりします。
ハムストリングスは人体で最も筋挫傷 (肉離れ) を起こしやすい場所として有名です。
大腿二頭筋腱炎の症状
- 歩行時に膝の外側が痛い
- 階段の上りで膝の外側が痛い
- 椅子から立ち上がると膝の外側が痛い
このように日常生活でも痛みの症状が現れるため運動をしない場合にも比較的気づきやすい疾患です。
大腿二頭筋は膝を曲げる作用がある筋肉のため、椅子から立ち上がるなど膝を長時間曲げた状態から急激に伸ばそうとすると強い痛みが出ます。
また、階段などのハムストリングスに力が加わる動きでも同様に大腿二頭筋が強く収縮するため大腿二頭筋の腱が引っ張られる事で膝の外側に痛みが現れます。
大腿二頭筋腱炎の原因は?
大腿二頭筋はひざ下の外側にある腓骨頭(ひこつとう)という骨の先端に付いています。
腓骨頭に付着する部分は筋肉から腱に移行するためこの部分がランニングなどハードなスポーツで膝関節の骨と擦れたり、強く膝関節を曲げる力が加わることで腱に傷が付いてしまいます。
大腿二頭筋腱炎
ちなみに類似疾患である腸脛靭帯炎は大腿骨外側上顆 (だいたいこつがいそくじょうか) という大腿骨の突起に擦れることで炎症、痛みがでます。
腸脛靭帯炎
このように大腿二頭筋腱炎と腸脛靭帯炎は位置的にも似ている上、腸脛靭帯炎が一般的に知られているため大腿二頭筋腱炎は腸脛靭帯炎と診断される事が非常に多くなっています。
大腿二頭筋の傷害では体が冷えた状態でのスポーツやオーバーユーズ(使い過ぎ)により肉離れを起こすことも多く、この場合は太ももの裏側に3日~1週間程で内出血が現れることがあります。
つまり、硬くなった筋肉にスポーツなどの繰り返しの外力や使い過ぎによる負担がかかる事で大腿二頭筋腱炎を起こしやすくなります。
大腿二頭筋腱炎は膝の外側が痛むことと、ランニングで多発することから腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)と間違えられることが非常に多いためしっかりとした鑑別が必要です。
腸脛靭帯炎について詳しくはこちら ⇩
大腿二頭筋腱炎の治療法
大腿二頭筋腱炎の治し方には次のような方法があります。
- 安静
- テーピング
- サポーター
- ストレッチ
- マッサージ
- トレーニング方法の見直し
1.安静
まずは可能な限り安静です。大腿二頭筋腱炎の多くはオーバーユース (使い過ぎ) によるものなので運動を中止する事で炎症が鎮まり早期の復帰が望めます。
安静にする際は筋肉の緊張を緩めるため出来るだけ膝を伸ばしきらないようにします。
運動を中止している間は急性期を除いてなるべく温めて血流を良くする事で回復が早くなります。
2.テーピング
運動を中止できない場合や大腿二頭筋腱炎が軽度の場合、大腿二頭筋に沿ってテーピングを貼ります。
特に膝関節をまたぐようにやや長めに貼ると効果的です。
大腿二頭筋は上に行く途中で長頭と短頭の2つに分かれます。そのためこの両方をテーピングで補強します。
3.サポーター
テープにかぶれやすい体質の人やスポーツを行いながら治したい時にはサポーターが便利です。
また軽度な症状から重度のものまで幅広く対応できるので多くの人に活用できます。
大腿二頭筋腱炎では膝の動きを制限して圧迫する以下のような膝用のサポーターがおすすめです。
サポーターは痛みが落ち着いたら少しずつ外す時間を長くして徐々に足を慣らしていきます。
また、ジャンプやダッシュなどのハードな練習には予め着用するとケガの予防になります。
4.ストレッチ
筋肉が硬くなり伸びにくくなるとその筋肉が付いている関節付近に痛みが出やすくなります。
痛みの予防や軽度の大腿二頭筋腱炎にはストレッチが効果的です。
必ず入浴後や軽いウォーキングなどで体が温まった状態で行います。体温の低い早朝やいきなりのストレッチは筋肉を痛めやすくなります。
一般的な大腿二頭筋のストレッチはハムストリング全体を伸ばします。立った状態で前かがみのストレッチは腰を伸ばす時にギックリ腰の危険性があるため座った状態をおすすめします。
伸ばしたい足の膝をを真っ直ぐにして反対の足で押さえて固定します。
大腿二頭筋腱炎の痛みが中程度以上の場合、ストレッチは逆効果となるため安静にし避けるようにします。
5.マッサージ
マッサージは硬くなった筋肉を緩める目的として行われます。マッサージをする際は筋肉を弛緩させた状態で行い、且つ患部を直接緩めないようにします。
うつ伏せの状態で膝を直角にして大腿二頭筋を弛緩 (緩める)させた状態にします。
大腿二頭筋に沿って膝の上からお尻の坐骨辺りまでを丁寧に緩めていきます。
6.トレーニング方法の見直し
過度な練習メニューや偏ったトレーニング法を見直すことは痛みの緩和、再発の防止に繋がります。
筋トレでの「負荷のかけ過ぎ」や「拮抗筋のトレーニング不足」、トラックを回るなど「同じ方向ばかりのランニング」、「内股の癖」を直すなど全体での練習メニューとは別に個人個人に適した練習を行う事が理想です。
まとめ
大腿二頭筋腱炎の痛みは膝 (ひざ) の周囲に当たるため、膝の軟骨や半月板、靭帯や坐骨神経などから出る痛みとの区別が難しいと思います。
特に腸脛靭帯炎との区別は難しいですが、これらの類似疾患を詳しく知る事で、逆に消去法として大腿二頭筋腱炎にたどり着く事もできます。
「腱」という部分は慢性化させてしまうと治るまでに時間がかかる事が多いため、とにかく早期に痛めた部位を知り、適切に治療を行うことが必要です。