四十肩・五十肩
しじゅうかた・ごじゅうかた
四十肩・五十肩とは肩の関節に原因不明の痛みが出たものをいいます。
四十肩・五十肩の正式名は肩関節周囲炎といいます。さらに肩関節周囲炎は肩峰下滑液包炎、石灰沈着性腱板炎なども含みます。
出典 : 整形外科シリーズ 5
四十肩と五十肩の違いですが、これは同じ意味でどちらでも構いません。この肩関節周囲炎は40歳〜50歳代に最も多発する事からこう呼ばれます。
症状
肩の関節に強烈な痛みが出ます。症状の現れ方には2通りあり、何かを取ろうとするなどちょっとした拍子に突然激痛となるものと、なんだか肩が痛いと思っているうちに徐々に関節が痛みで動かせなくなるものとがあります。
四、五十肩の症状は腕をほとんど動かせないタイプと動かせるけど痛みがあるタイプがあります。
特に四十肩・五十肩では夜間痛が強く、睡眠時にズキズキとした疼くような痛みがあり、寝られない事も珍しくありません。
意外かもしれませんが肩関節の痛みは肩自体はもちろん、三角筋の付着部 (腕の付け根から10㎝程下の外側部分) 辺りに強く出る事があります。他に肘の少し下 (中指を動かすとピクピク動く肘の所) 辺りにも痛みが現れます。
その他、肩関節の内捻りや外捻り(内旋・外旋) の動作、腕を真横から上に挙げる動作で痛みが強いのが特徴です。
四十肩・五十肩は治った後も同じ側の肩や反対側の肩で何度も再発する事があります。両肩が同時に出るものも少なくありません。
原因
40歳代、50歳代に多く、男女差はありません。運動している人もしていない人も同じように発症します。はっきりとした原因は不明です。ただし他の肩関節周囲炎では原因が分かるものもあります。
同じ人に何度も発症することが多い事から体質が関係していると思われます。
鑑別診断
四十肩・五十肩と非常に間違われやすいものがありますので注意が必要です。
- 腱板損傷
- 上腕二頭筋長頭腱炎
- 肩鎖関節脱臼
- 頚椎、胸椎椎間関節の拘縮
- 過外転症候群
1.腱板損傷
肩が上がらない、上げると痛いなどでは腱板損傷も疑われます。腱板損傷では肩の捻り (内旋・外旋) は問題なく可能です。
⇒ 腱板損傷のページへ
2.上腕二頭筋長頭腱炎
上腕二頭筋の腱は長頭腱と短頭腱の2つに分かれます。この内の長頭腱が上腕骨の溝と擦れて炎症を起こし痛みが出ます。
この疾患はかなり見逃されやすく、四十肩・五十肩と非常に間違われやすくなっています。
⇒ 上腕二頭筋長頭腱炎のページへ
3.肩鎖関節脱臼
肩鎖関節は肩甲骨と鎖骨から成る関節で靭帯で結合されています。
外傷などでこの靱帯の一部が断裂したものでは腕を下に引くと肩鎖関節が少し出っ張ります。過去に肩や手を強く衝いていて知らない間に「古傷」となっているものがあり、腕を挙げるたびに痛みを感じます。
⇒ 肩鎖関節脱臼のページへ
4.頚椎・胸椎椎間関節の拘縮
背骨である頚椎、胸椎の関節はデスクワークや加齢などで硬くなり次第に関節部を押すと痛みを感じるようになります。
この状態が悪化してくると、腕を挙げる際に肩甲骨も動くため、その肩甲骨が背骨を押し動かす事で腕の痛みとして強く感じるようになります。この場合、背骨の関節が緩む事で瞬時に肩の痛みが無くなります。
5.過外転症候群
過外転症候群 (かがいてんしょうこうぐん)は肋骨から肩甲骨の烏口突起へ付いている筋肉である小胸筋が腕に行く神経、血管を圧迫する症状です。
⇒ 過外転症候群のページへ
治療法
四十肩・五十肩の治療では
保存療法
が行われます。その中でも特に運動療法での治療が確実で早期の回復に期待できます。
放置しても治るものもありますが、痛みが無くなるまで平均1年はかかってしまいます。正しくリハビリをすれば1ヶ月から2ヶ月ほどで日常生活に支障がなくなります。
運動療法では以前は重りとなるアイロンを持った手を振るような方法が主流でしたが、重りを持つ事自体が痛みを誘発するため、現在では手だけの自重で動かすようにして治します。
運動療法の仕方と注意点
治そうとして痛みが出た直後から無理に回したり温めたりすると肩に非常に強い炎症が起こり横になる事も出来なくなるので注意が必要です。もしこのような状態であればアイスノンや保冷剤で一日中冷やして炎症を早期に抑えると痛みが落ち着きます。
1週間安静にするだけで痛みが無くなるものもありますが、ほとんどの場合はここから運動療法となります。
四、五十肩では少しずつ動く範囲 (可動域)を広げて行く事が重要です。ただし慌てて無理に動かすと必ず炎症が起きて激痛となりますので急いだり長時間 (やりすぎ) の運動は逆効果となります。
運動ではまず腕を前と横に90度挙げることを目標とします。すでに90度挙がる場合はその先から行って大丈夫です。体勢はまずベッドに仰向けの状態で行います。
仰向けで肩の運動を行う理由は肩甲骨が動いてしまわないようにベッドに固定し腕の関節そのものが動くようにする為です。
運動を行う際はできれば他の人に手を持って動かしてもらいます。自分自身で腕を持ち上げるのは腕の重さが肩関節にかかりますので痛みが強く困難な事が多いです。
運動方法
2人で行う方法
仰向けの状態で親指が上になるように気をつけ姿勢をとり、ゆっくり肘を伸ばしたまま挙げられるところまで上げてもらいます。
最初の目標は90度までです。仰向けですので腕がベッドと垂直になるまでとします。90度まで腕が上がらないものは、痛みが出る手前で止めて下ろすを繰り返して行います。
次に痛みのある側を上にして横向きになります。その状態で手のひらを上にしたまま腕をゆっくりと上に挙げていきます。
手のひらを上にする理由は上腕骨にある骨の突起部分が肩の関節である肩甲骨と衝突して痛みが出るのを避けるためです。肩関節の衝突した痛みを「インピンジメント症候群」といいます。
こちらも90度をまずは目標として上げ下げをゆっくり行いながら動く範囲 (可動域) を増やしていきます。
このように仰向け、横向きを繰り返しながら徐々に90度を超えられるようにします。
自分で行う方法
自分で動かす方法では壁を使います。体を壁に向けて立ち、痛みがある方の手のひらを壁に当てます。(この時指は上向きです)
そのまま指で壁を這うようにして上へ登って行きます。痛みが出る手前の高さで止めて少し体を壁に近づけます。このまま30秒ほど静止してゆっくり手を下ろします。
次は立ったまま壁に対して横向きになります。痛みがある側を壁に向けて先ほどと同じように壁に手を当て指で這い上がります。この時肘は曲がっていても大丈夫です。
痛みが出る手前でまた静止して体を少し壁に寄せながら30秒ほどストレッチします。
以上の動作をを繰り返して少しずつ手が高く挙がるようにしていきます。
注射による薬剤での治療法
肩の痛みに対して注射による薬剤での治療があります。
急性期から数回はステロイド注射で痛みが直ぐに消えるものもあります。直ぐに消えないものは膝 (ひざ) の関節の治療に使われるヒアルロンと麻酔剤を混ぜた注射を使う場合もあります。
そのほか、痛みの出る原因として周囲に毛細血管の増殖が見られる事があります。この毛細血管を抑える事で痛みを緩和する方法も進歩しています。
ただし注射の場合、最初の数回で効果がなければこれだけでの治療では厳しくなります。
他に肩の関節部が一部石灰化したものには注射器で石灰を吸えるものもありますが、硬くなった石灰には吸えないものもあります。この場合は、肩の運動療法を行うことで通常の石灰は吸収され消えていきます。
長期間にわたり石灰化したものや大きく何個もある石灰、腱板損傷で石灰化してそのまま治癒したものは消えないものもあります。
四十肩・五十肩のほとんどは何かすれば瞬時に治るというものでは無いので、無理せず少しずつ動く範囲を広げていく事が最短で最も効果的な治療法です。